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消費期限?賞味期限?

英国のチェスター大学(University of Chester)の調査によると、英大手小売の4大スーパー(「BIG 4」と呼ばれる)テスコ、セインズベリー、アズダ、モリソンズで販売されている牛乳は、未開封のまま、4度に保った冷蔵庫に保管してあれば、消費期限(use-by date)を過ぎても安全に飲めることが判明した。


その結果を踏まえ、モリソンズ(Morrisons)は、自社ブランドの牛乳の90%において、消費期限表示をやめて、2022年1月末から牛乳および乳製品には、おいしさのめやすである賞味期限を表示している。モリソンズは、2022年1月9日にそのことを発表し、「食品ロスを減らすため、牛乳の消費期限を廃止する英国初のスーパーマーケットになる」と宣言した。消費者に対しては、飲む際に嗅覚テストをするよう、呼びかけている。


モリソンズでシニアミルクバイヤーのイアン・グッド(Ian Goode)氏はBBCの取材に対し「大胆な一歩」であると述べている。


英WRAPによると、牛乳は、ジャガイモとパンに次いで、英国で3番目に廃棄の多い食品だ。毎年、約4億9000万パイント(約2億7844リットル)もが廃棄されている。そのうち、8500万パイント(約4830万リットル)の牛乳が廃棄されているのは、消費者が、律儀に表示を守っているためではないかと推察している。


このように、欧州では、消費期限を賞味期限に変えたり、賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」と入れたりする動きがある。デンマークでは2019年に賞味期限・消費期限に関するキャンペーンを行った。牛乳などの賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」と書き、五感で判断する大切さを説明するなど、さまざまな取り組みをおこない、5年間で25%も食品ロスを削減した。


日本の食品の賞味期限は、総じて他の先進国と比べて短い傾向にある。なぜだろうか。

加工食品の多くは賞味期限が短く設定されている

日本の加工食品の多くは、賞味期限が短く設定されている。


品質が保てる期限が5日以内の食品に表示されるのが「消費期限」。おにぎりや弁当、サンドウィッチ、刺身、惣菜、生クリームのケーキなどに表示される。時間とともに品質が劣化するので、場合によっては時刻まで書いてある。先日、話題になった恵方巻なども消費期限が表示されている。


これに対し、「おいしさのめやす」なのが賞味期限。消費期限とは異なり、過ぎたからといってすぐに「安全に食べられる期限」がくるわけではない。賞味期限の場合、安全に食べられる期限は、もっとずっと先にある。その「おいしさのめやす」に対し、日本の企業の多くは1未満の安全係数を掛け算する。国(消費者庁)は0.8以上を推奨している。たとえば10ヶ月間おいしく食べられるカップ麺であれば、0.8をかければ8ヶ月になる。



なぜ企業は賞味期限を短く設定するのか

なぜ企業は賞味期限を短く設定するのだろうか。


メーカーの製造工場を出るまでは、保管温度や湿度などが厳しく設定されている。でも、いったんトラックに載せて出れば、その先では、さまざまな条件下にさらされる。卸売業の倉庫や小売店のバックヤード、直射日光があたる店頭に置く小売店、真夏に買い物して車のトランクに詰める消費者・・・このようなリスクを考え、短めに設定するのだ。前述の通り、1未満の「安全係数」を掛け算する。

(加工-22)加工食品に賞味期限を設定する場合、安全係数についてはどう設定 すればいいのでしょうか。 (答) 客観的な項目(指標)に基づいて得られた期限に対して、一定の安全をみて、食品の特性に応じ、1未満の係数(安全係数)を掛けて期間を設定することが基本で す。なお、安全係数は、個々の商品の品質のばらつきや商品の付帯環境などを勘案して設定されますが、これらの変動が少ないと考えられるものについては、0.8以上を目安に設定することが望ましいと考えます。また、食品ロスを削減する観点からも、過度に低い安全係数を設定することは望ましくないものと考えます。過度に低い安全係数で期限を設定した後、在庫を解消するために、期限の貼替え を行い、消費者に誤解を与えた事例もあることから、適切な安全係数を設定することが重要です。

国(消費者庁)は、品質のばらつきや環境の変動が少ないものに関しては、安全係数を「0.8」以上に設定している。が、ある分析センターでは「0.7から0.9」を使っている。国の推奨より低い値も使っている、ということだ。0.3を使っていたメーカーもあった。もしこの商品が10ヶ月の賞味期限だったら、3ヶ月に期間が短縮することになる。ある冷凍食品の会社は0.7を使っているし、1年以上の賞味期限がある製品に0.66の安全係数を使っている会社もある。その背景には、食品事故や消費者からのクレームをできる限り防ぎたいという思惑もある。


そもそも食品にはリスクがつきものだ。毎年、正月には、餅をのどに詰まらせる事案が発生する。これは物理的リスク。あるいは残留農薬などの化学的リスクや、ウイルスなどの生物学的リスクもある。東日本大震災の時には放射性物質に注目が集まった。これらリスクは、どんなに努力してもゼロにすることは不可能だ。食品にゼロリスクはない。その中で、できる限り安全な食品を届けるために、ほとんどの企業は邁進している。


そんな企業に対し、責任を転嫁する傾向にあるのが日本の消費者だ。昨年末、生乳5000万トンがあわや廃棄、というときにも「バターにしろ」「企業努力が足りないからこんなことになるんだ」といった声が多く見受けられた。すでに企業は精力的にバターに加工していたにもかかわらず。2014年のバター不足をふまえて、酪農・乳業業界は乳牛を増やすなどの努力を何年がかりで進めてきた。そこにコロナが襲い、飲食業界の需要が落ち込み、消費者の消費を促進せざるを得なかった。そんなことなど何もわかっていない日本の消費者に対峙するためには、賞味期限を短くせざるを得ないという企業の事情もあるかもしれない。


賞味期限はどうやって決められるのか?

賞味期限はどうやって決められるのだろうか。「微生物試験」「理化学試験」「官能検査」といった3つの試験や検査を経て、さらに安全係数を掛け算して決められる。


ただ、大企業であれば、自社内に研究所を持っているが、食品業界の場合、そうでない中小企業の方が多い。その場合、食品分析センターのような外部機関に依頼したり、類似商品を出している業界トップの会社の設定に追随し、同じ賞味期間に設定したり、業界団体が作成したガイドラインを基に決めたりする。


短い賞味期限が引き起こす食品ロス

リスクを考慮して短く設定された賞味期限は、当然、食品ロスになりやすくなる。


商慣習「3分の1ルール」

日本の食品業界には、小売業界がメーカーに課すルールが多くある。その1つが「3分の1ルール」だ。賞味期限全体を3分の1ずつ均等に分け、最初の3分の1が納品期限、次の3分の1が販売期限。



賞味期限が6ヶ月のお菓子であれば、製造してから2ヶ月が納品期限、4ヶ月が販売期限となる。製造して2ヶ月以内に店に納品しないとならない。海外で作っている場合、飛行機で飛ばせば早いが、コストが高くなるので船で運ぶ場合も多く、少しでも遅れるとアウト。納品が許可されない。なぜか。小売店は少しでも新しいもの、作って間もないものを売りたいからだ。販売期限がくれば、スーパーでもコンビニでもデパ地下でも、商品棚から撤去されることがほとんどだ。


つまり、短めに設定された賞味期限を基準にして、これら納品期限や販売期限が設定されるわけだ。




商慣習「日付後退品」

食品業界に存在する商慣習は、3分の1ルールだけではない。前の日に納品した同じ商品より、1日たりとも賞味期限の古い(短い)商品は納品できないというルールがある。前日納品のものより賞味期限が短いものを「日付後退品」などと呼ぶ。この「日付後退品」は納品できないのだ。


消費者の誤解も多い。「消費期限(しょうひきげん)」と「賞味期限(しょうみきげん)」は、発音すれば「ひ」と「み」の1文字しか違わない。この2つの意味の違いは中学校の家庭科で履修する。が、男性は、ある世代から上は、家庭科を履修していない。家庭科が男女必修になったのは平成になってからなので、少なくとも今の40代以上の男性は家庭科を履修していない。履修せずとも知識があればいいのだが、残念ながら全員がそうとは限らない。それは女性も同様だ。中学校の家庭科の教科書を読むと、野菜の選び方や賞味期限・消費期限の違いなど、生活していく上で大切なことがたくさん書かれていることに気付かされる。


「短すぎる賞味期限」に対する国内外のさまざまな取り組み

このような、短めに設定された賞味期限に対し、国内外ではさまざまな取り組みがある。


賞味期限そのものを延長する動き

その1つが、賞味期限そのものを延長する動きだ。容器包装の技術を使って延ばすものもある。たとえば醤油。以前はふたを開けると酸化が始まり、黒くなってしまっていた。今では密封タイプの容器が開発され、製造から90日間、鮮度を保つことができる。マヨネーズも、酸素に触れづらい製造方法に変え、容器包装を改良し、7ヶ月だった賞味期限を12ヶ月に延ばした(キユーピーの場合)。




賞味期限が切れた商品を活用する動き

賞味期限が過ぎたものを販売するお店が出てきている。発祥は、デンマークのwefood(ウィーフード)。日本でもマルヤスやエコイートなどの店がある。日本では、省庁に備蓄している食品は、以前は入れ替えのときにすべて処分していたが、今は、福祉団体などに寄付しており、その中には賞味期限が過ぎた缶詰なども含まれている。


英国政府が立ち上げた組織WRAP(ラップ)は、賞味期限が過ぎても「ここまでは使うことができる」というガイドラインを、コロナ禍で改訂して発表した。2017年に発表されていたものを改訂した。これは販売目的ではなく、フードバンクなどの福祉団体が安心して再利用できるようにするためだ。




賞味期限を年月表示にする動き

賞味期限は、3ヶ月以上あれば、日付まで入れる必要はない。「年月」でいい。海外では、18ヶ月以上あれば「年」だけでいい、という国もある。


そこで、日付を省略する動きがある。筆者の勤めていた食品メーカーでは、20年以上前から年月表示にしていた。国内では、農林水産省などの呼びかけに対し、比較的動きが早かったのは清涼飲料水の業界だ。2013年5月の製造分から、2リットルのペットボトルのミネラルウォーターで年月表示への切り替えが始まった。ペットボトル飲料、小さいサイズでも切り替えているところもあるが、そうでない商品もまだまだ多い。他にも缶ビール(底に表示)やレトルト食品などでこの動きがある。


ただ、注意すべきは、半端な日付は切り捨てされ、前月表示になる、ということ。たとえば「2022.2.10」と表示されていたものは、10日分が切り捨てられ、前月の「2022.1」となるわけだ。となれば、逆に食品ロスが増えてしまう。そこで農林水産省は、「賞味期限延長」と「年月表示」を並行して進めるよう、食品関連事業者に呼びかけている。



消費期限を賞味期限に変える動き

冒頭に述べた通り、欧州では、これまでused-by date(使用期限・消費期限)表示にしていた牛乳の表示を、best-before date(賞味期限)に変える、といった動きがある。


賞味期限の別の呼び方を提案する動き

日本では、表示を一元管理する消費者庁が、賞味期限の愛称・通称コンテストを実施した。筆者も審査員として参加した。最優秀賞は「おいしいめやす」。


このように、SDGsでも資源ロスの削減が謳われる中、短すぎる消費期限を長くする、あるいは関連した動きが世界各国で起こっている。





上記は食品に対する世界的な動きだが塗料案件もまたしかりで、製造メーカーが自己利益保身の為に決めたものをそのまま鵜呑みにし、1年過ぎれば捨てるという行為は、まさに「思考停止」。自分の頭で考え、自分の五感で判断するのが今流の生き方ではないでしょうか。



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